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Case study #01「MUJI 10,000 shapes of TOKYO」

「無印良品」の商品で “東京” を表現したインスタレーションを台湾と NY で実現させるまで

世界一の観光都市を標榜する「TOKYO」の PR を目的にした、東京観光財団と無印良品による『MUJI 10,000 shapes of TOKYO』。
400 品目 10,000 点にもおよぶ無印良品の商品で、東京タワーをはじめ東京の建物や街並みを表現。台北(3 月 5 日~ 13 日)、ニューヨーク(3 月 19 日~ 4 月 24 日)に展示された。 この企画実現までの過程、成果について、制作陣に話を聞いた。

株式会社 良品計画 WEB 事業部長 川名常海さん
株式会社 良品計画 WEB 事業部 コミュニケーション担当 風間公太さん
株式会社 良品計画 WEB 事業部 コミュニケーション担当 鎌田健史さん
株式会社 TASKO 設計制作事業部 工場長 木村匡孝さん 北澤岳雄さん
dot by dot inc. Creative Director / COO 谷口恭介
dot by dot inc. Planner 藤原愼哉

無印良品の商品の持つ「収納の美しさ」を「東京の美」に重ねる

まずは、このプロジェクトチームの皆さんが出会われたのはいつ頃ですか?

川名常海さん(以下、川名):この企画は 2015 年 6 月が最初の打合せだったのですが、2014 年から元々 dot by dot inc. さんや TASKO さんとはお付き合いがありました。
藤原さんに “無印良品愛” に溢れた持ち込みプレゼンを頂いたことが印象に残っていて。なにか一緒にできればとずっと思っていたんです。

藤原愼哉(以下、藤原):2015 年の夏前に、川名さんから東京観光財団さんの公募プロジェクトへの参加を考えているとお声がけを頂きました。

川名:東京観光財団さんは、これまでは旅行券のプレゼントなどのキャンペーンをしていたそうなんですが、これまでにない東京の新たな魅力を PR できるのではないかと公募をされていました。我々のような顧客とのダイレクトな接点を持つ小売による提案は新たな取り組みになるのではないかと、dot by dot inc. さんや  TASKO さんと企画を考え応募を決め、選定されることになりました。

風間公太さん(以下、風間):選定後、財団さんからはアジアと欧米で一箇所ずつ拠点をつくって何か企画をやってほしいというオーダーがありました。そこに弊社のマーケティングの戦略面も加味して、アメリカと台湾での実施が最初に決まりました。

それぞれの店舗を選ばれた理由は?

風間:欧米の中では、これからビジネスを拡大していきたいエリアがアメリカだったり、ニューヨークに新たな店舗もオープンするタイミングだったりしたので。 アジアは、中国が一番マーケットとしては大きいですが、デジタル的な施策はやりづらいエリアという点がネックでした、台湾は親日家の方も多かったり、大きいお店ができたりというタイミングも踏まえて選びました。

藤原:ちょうど 2015 年 11 月頃 にニューヨークに MUJI Fifth Avenue という新店舗がオープンすることになっていたので、アメリカに関してはそこが PR 的にも相乗効果が高いだろうと。

そこからインスタレーションに行き着いた経緯はどのようなものだったのでしょうか?

藤原:最初にアイデアを検討した際には、お店でのインスタレーションとは決まっていなかったですね。

谷口恭介(以下、谷口):MUJI さんに最初にアイデアをお持ちした時には色々なものがありました、PP ケースを背負って東京を動き回るとか、プロジェクションマッピングをしようとか、CSR 色の強い企画として不要なものを集めようとか、ストレージだけでポップアップショップを空港で作ったりとか。

当時の企画資料

藤原:ストレージを使ったご提案をしました。海外で何が売れているかというと上位は PP ケースという半透明な収納ケースや、アクリルケースなんですね。海外は整理という考え方があまりなく、無印良品の中でも整理に関する商品は海外では支持されているという話を聞いたので、無印良品はイコール東京、日本のブランドであるということをその売れている商品群に関連づけていくのがいいのではないかと思いました。
そこで、「収納の美しさ」を「東京の美」に重ねる案をいくつかお持ちしたんです。インスタレーション案の中で結構揺れたのが「東京の表現」をどうするかですね。東京らしさはそれぞれ主観もあるので。
その中で結果的に基準にしたのが、東京都が毎年来訪者に対してイメージ調査をしていて、その中で「行ってみたい所」「行って良かった所」「東京といえば」といった問いに対して全て1位が東京タワーだったことが決め手になりました。

提案時のイメージパース

このインスタレーションの方向で行こうと決まった理由は?

藤原:収納の美しさと、アウトプットとして東京らしさを表現する、などといった色々な要素を加味して、インパクトを考えた時にこれがいいだろうということになり、このアイデアで公募に提出しました。

藤原:そして実際に企画が動き出した際には、「これは僕らだけじゃできない」と TASKO さんにお声がけしました。

木村匡孝さん(以下、木村):最初、商品の現地調達の案もありましたよね。こんなに商品が集まるのかなという不安が正直ありました。また、画にする場合に解像度がどこまで上がるのかなという点も気になっていて。実験する中で、白い商品が中心で、ペンもそんなに色のグラディエーションを表現できるまではない。これは細かいものをつくると大変そうだな、と。そんな中で地図を見ながらこの東京の街の色をどうやって表現するかを考えて数ヶ月経ちました。

「もっと商品を送るから、ディテールを細かく」

その間も試しに作ってみたりしたんですか?

藤原:その時点でちょっと停滞したんです。「これは見に行かないと分からない、とりあえずお店にいこう」と、台北とニューヨークの店舗を実際に視察しました。

視察してみての感触はいかがですか?

木村:北澤くんと店内をうろうろして、写真をパシパシ撮りながら iPad でその場で図を作っていました。これでいけるんじゃないかという手応えもあって、そこからはすんなりいったかなと思います。

パーツの個数はどのように決めていったのでしょうか?

木村:北澤くんが地図を作って、パーツの個数を計算して。

北澤岳雄さん(以下、北澤):地図からもそうですし、場所のスケール感をまずみておかないと数は決まらなかったので、現場に行った時に図を書いて決めていきました。 まずは東京タワーが何の商品で、個数がいくつでという点から決めました。

川名:この図を見て、「こんな感じで街になるんだろうな」と、一気に頭の中でイメージが広がりました。

実際に iPad で作られた図

北澤:帰国後、実際の制作場所は倉庫だったので、Google マップを A3 で出力してひたすら継ぎ合わせて、「ここを皇居のエリアにしよう」などと考えていきました。
その中で、商品をいじったり曲げたりこわしてはいけないということは絶対的なルールとして決めていました。あとはわざとらしくならないことですね。あくまで東京の何かに見える、でも実は無印良品の商品、という存在感ですね。じっと見てると「あ、そこに鉛筆削りがある!」と気づくくらいの視点が肝かなと。

木村:「東京の風景って何だろう」ということをずっと考えていると、東京はビルの赤い光が多いので、この光があるといいなと思っていました。
この照明は未来の技術が詰まっていて、2 ヶ月持ちます。無印良品さんの商品って白いものが多いので映えるんです。

出来映えにおいて重要視した部分はありますか?

谷口:ディテール、東京っぽいシズル感です。人によっての「このポイントが好き」という、見所をどれだけを沢山つくるかということですね。

風間:僕らがお願いしたのは「とにかくディテールにこだわってほしい」ということでした。

川名:倉庫での組み立てを見に行って「ディテールをどんどん詰めて下さい、もっと商品を送るから、もっと細かくして下さい」と言って帰ってきたのを覚えています。

ディテールが大事と感じられた理由は何ですか?

川名:やはり実際に見た時に思ったのが、人はついこのインスタレーションに「寄っていく」んですよね。最初はもっと俯瞰して見るイメージだったのですが。
東京タワーを軸にそれぞれの縮尺・バランスも最初は考慮していましたが、それはどうでもいいと。むしろ寄っていったときのディテールにこだわっていこうという話をしました。

再現が大変だったのはどんな場所ですか?

北澤:レインボーブリッジやお寺などはモチーフが単独ではっきりしているので結構早く固まっていきましたが、ビルが溢れているような渋谷や六本木などは大変でした。

風間:ただ作っている現場を見ていると、楽しそうでした。体力的にはキツかったと思いますが、それでも作っていく工程の喜びを見つけてくれてやってくださったことは嬉しかったですね。

商品の在庫は大丈夫でした?

藤原:四回くらい発注させてもらいました。

風間:商品配送センターから怒られるくらいです(笑)。

日本で作って持っていくにあたって注意した点などはありますか?

藤原:現地だと扱っている商品や在庫の自由度も低いので、日本で作ることは早くから決まっていました。

木村:発送は一発にすることにしました。細かい商品も多いので、どういう運搬する箱にするかも重要で、いかに無理なく無駄なく送れるかを考えた箱を作り、全16箱にして発送しました。

藤原:商品としてそのまま発送すると関税がかかってしまうので、美術品として ATA カルネ(物品の一時輸入のための通関手帳に関する条約に基づき、職業用具、商品見本、展示会への出品物などの物品を外国へ一時的に持ち込む場合、外国の税関で免税扱いの一時輸入通関が手軽にできる通関手帳)を使いました。

北澤:例えば、新宿エリアがボックス 1、そのボックスの総量は何キロ、というシートを記入しました。帰ってくるときも同じ重量じゃないといけなかったので。

動画を制作することで、その店舗のものだけではない企画に

台北とニューヨーク、それぞれの店舗で異なった点もあったのでしょうか?

藤原:台北は百貨店(統一時代百貨)の中ですね。ニューヨークは路面店です。

木村:内容物は同じで、店舗に合わせて配置を変えています。台北は室内で天井も低いので、あまり狭苦しくないような配置にして、狭い中でも遠くから見ると全体がどーんと見える配置にしようと。
ニューヨークは柱が何個か立っていたので、中にひとつ大きい東京タワーがあって、その他の景色はウィンドウ一個ずつに映るようにしていきました。天井がすごく高かったので、抜け感がいいなーと思って。

鎌田健史さん(以下、鎌田):台北で一日お店にずっといた時に一番よかったなと思ったことは、沢山の親御さんが自分の子どもを立たせて写真を撮っていたことですね。見ている方も幸せ、撮っている親御さんも幸せと、みんな幸せな時間でした。

藤原:MUJI 台湾の社員さんが「無印良品」のブランドについてよく理解しているということを伺っていたのですが、実際にそのように思いました。オフィスに行った時に、廊下に 30 年ほど前からのポスター・名作コピーが綺麗に貼ってあって、「あ、無印良品のことが本当に好きな人達なんだろうな」と感じたんですね。

PR 面では現地で約 30 媒体露出したとのことですが、各国のメディアにはどのようにコンタクトしていったのでしょうか?

藤原:今回肝になったのは映像制作でした。店内でのインスタレーションだけになると、そのお店だけのものになるので、なんとかそれ以上に広めたいなと映像を制作し、メディアに送りました。

風間:映像は PR の武器とすべく、「とにかくカッコいいものを作ってほしい」とオーダーしました。実際この映像が出来た時「あ、これは来たな」と思いましたね。

ムービーは国外でも多く視聴されましたか?

川名:中国からの視聴や、メディア掲載の面でも中国は多かったです。

風間:台湾でのメディア露出を見て、伝わっていったようです。

台北とニューヨーク、それぞれの店舗や店員さん発でも、独自の工夫はあったのでしょうか?

蒲田:台湾では、現地のスタッフが拡声器を手に店内を歩いて告知してくれることもありました。両店舗とも設営の時からテンション高く取り組んでくれました。

風間:店舗のスタッフは若い子が多いのですが、彼らにとってみると、普段売っている商品が形を変えてアートになっていることの面白さを感じてくれたようです。僕ら以上に普段から商品に接しているわけですから。

川名:日本の商品部でも「この商品がこうなるんだ」という発見になったという声を聞きました。

社内のコミュニケーションのきっかけにもなったのでしょうか?

川名:「どうやってやったの?」とか、「どことやったの?」とか、よく聞かれましたね。

風間:今回実施した以外の国からも、「ウチの国でやってくれ」と言われることも多かったです。

「一緒に作り上げた」手応えがある企画

新しい形のクリエイティブですが、この施策を実施した意義についてはどのようにお考えですか?

川名:新しいクリエーションを実現出来た意義は大きかったですね。我々 WEB 事業部は、既存の MUJI のクリエイティブも継承しつつ、役割としては新しいクリエーション、新しいコミュニケーションを作っていくのが役割だと思っているので、まさに、狙い通りでした。
ただ難しかったのは、僕たちがオリエンしなくてもすごく dot by dot さんが無印良品の過去のクリエイティブも見てくれていて、それに引っ張られちゃうんですよね。有難いことですが、「新しいクリエイティブをつくりたいから、無視してくれてもいい!何のために俺たちがいて、みんなとやるのか」という話はよくしましたね(笑)。

今回面白いのが WEB 事業部でありながら、アウトプットの形は Web ではないというところですよね。

川名:最初は「WEB 事業部だし、面白いサイトを作って…」などといった発想から始まった部署ですが、お客さんはいろんな接点をまたぎながらお店に行くわけですよね。となると、その接点には全部関われるのではないかと。僕たちの関われる範囲を広げていくと店頭のインスタレーションに行き着いたように、そこまでトータルにデザインしていかないといけないというスタンスです。

藤原:Web というものがメディアとして浸透してきた時代に合わせて、その人達に届くようなものを作ろう、ということですね。沢山の個人がメディアとして発信出来る時代に、その人達に届いて「いいね」と思ってもらえないと広まらない時代なので。

木村:実は僕は Web でどうなるかということはあまり見ていなくて、店舗でどのようなものを作るのか、だけを考えていた感じです。
ただ東京を表現するのが無印良品さんの商品であるということはすごくしっくりきていて、東京の良さを伝える為の一個上のランクの広告だなと思っていました。
一個だけ気になっていたのは、弊社で手がける施策と比べると今回の施策はとても“静か”な作品で、映像にするときも「どう撮るんだろう」と思うほどでした。ただ、案外再生してくれて安心したんです。面白いだけのことをやらなくても、美しいものを作って店頭や映像で伝える、ということが認められるんだなという発見でした。

藤原:僕らがプレッシャーを感じていたのは、無印良品さんの商品そのものとお客さんからなんです。無印良品さんは商品自体が考え尽くされていて、買う人も「わかっている人」が多い。そこに向き合うというプレッシャーはありました。

谷口:ストレージを使って店頭で展示をすると決めた時に、覚悟を決めました。これは、ディテールで本当に迫力を出せば、みんな認めてくれるのではないかと。

この施策の成果はいかがでしたか?

川名:定量的な成果ももちろんですが、合宿やワークショップのようなものを一緒に長くやって、結果、新しいクリエーションを生み出せたということが一番の成果です。いかに対話して、お互いが理解できるかどうかということは、すごく大事ですね。

風間:一緒につくりあげた感じがします。僕らが期待していたことはやはり、これまで無印良品の踏襲ではなく、新しいこと。何度も「これまでの無印良品を忘れてください」という話をしましたね。「アイデアを出す時点ではいくところまでいってほしい、それを判断するのは僕らで、ダメなものは言いますから」と。何度もコミュニケーションを重ねた分、達成感があります。